独占欲
〜望蜀・R〜
「ぅ・・・っん・・」
触れるたびに濡れた声を抑え込もうとすることさえ、我が侭な主を煽るだけだった。
しかし忠義者の家臣は身体を重ねて随分経つ今もそれに気づかない。
昼間見た筋に湿った舌を這わせれば、小十郎はその硬そうな背をびくりと震わせる。舐めた跡を辿るように指先も這わせれば、思った通り柔らかくしなる背に政宗はうっとりと目を細めた。
政宗は小十郎の身体の彼方此方を確かめるように愛撫しながら、押し入る為の準備も怠らない。女子のようには濡れない、本来からは逸脱した行為を強いる秘所からは丁子油を塗り込める音が聞こえる。
『お手を煩わせては・・・』
いつもそう眉を寄せて言う小十郎を制してするこの行為を、政宗はかなり気に入っている。
生まれた時から何もかもをお膳立てされている暮らしには馴染みきっていたが、政宗は自身から動くことを欲する性質だ。だからわずか二、三行で済むような書状さえ祐筆には任せず、自身が筆を取る。そんな性質で、まして小十郎に施すことを、どうして煩わしいなどと思うだろう。
「・・小十郎、こちらを向け」
「は、い・・・っ・・あ!く・・・っ、は・・・ぁ」
仰向けられた途端に足を広げられ、押し入ってきた熱と質量に刹那、息が止まる。そうしていても辛いだけなのはもう何度も繰り返されて判っていることだ。小十郎は出来るだけ大きくゆっくりと息を吐き出し、体の力を抜く努力をした。
「小十郎・・・」
いつも余裕を無くし乱暴な自分に気づいていながらどうしようもない。それでも受け入れようとする優しい男に掛ける言葉さえも、政宗にはわからない。ただその名を呼べば、いつでも自分を見てくれることを知っているだけだ。
「・・政、宗さ・・ま」
今夜もやはり、先ほどまで固く閉じられていた目が開かれ、自分だけが映っている。
たったそれだけのことに政宗はいつも安堵した。
昼、剣の稽古のあとに湧き上がった激情。
自分以外が小十郎に触れることを許せないと思った。
幼い頃からの知己である成実さえ。
そんな強い独占欲も伊達政宗という男のどうしようもない性質なのだ。
きっとそんなことさえ小十郎には判っている。
今とは別人のように内向的だった幼い時分から傍に居た。政宗の今のような激しく強い感情や性格に育つさまを見てきた男。
いや小十郎という男こそが、この奥州の独眼竜と恐れられる男を作ったといってもいいのかもしれない。そして竜の強さの裏にある拭い切れない孤独も知っているからこそ、こうして何もかも受け入れるのだろう。
「政宗さ、ま・・如何されました、か・・・?」
下から潤み始めた瞳で見上げてくる小十郎に問い掛けられ、政宗は我に返る。
「どうもせぬ・・まだ辛いか?」
政宗の答えに小十郎はほんの少し困ったような表情を浮かべると、ぐっと政宗の首を引き寄せ、その永遠に閉じられた右目に唇で触れた。
その感触は温かく、優しかった。
「小十郎・・?」
「昼も申しまいたが・・小十郎の全てはとうに政宗さまのものでございますれば、如何様にもなさればよろしいので・・」
小十郎の言葉に政宗のただひとつ残された左目が大きく見開かれ、すぐに不自然に歪んだ。
「そんなことを申しておると、わしは増長するばかりぞ?」
「はは・・虎哉和尚に怒られますかな?」
「・・・ハッ!褥でそのように色気のない名を出すな、小十郎」
そのいつもの皮肉な口ぶりに小十郎はくすりと小さな笑みを漏らした。
「これは失礼を・・では、そろそろ色気を出しましょうや?」
誘うような言葉を投げ掛けてくる小十郎の顔には艶が滲む。
精錬潔白を絵に描いたような小十郎だが、昼間のように何時の頃からか政宗もはっとするような色気を見せるようになった。政宗にとってはそのことが嬉しくもあり、悩ましくもある。
数多くある家臣たちの間にも衆道が好みなものはそこそこいるようで、近頃の小十郎がふと見せるそんな色香を敏感に感じ取る輩もいることは知っている。
元々目鼻立ちもすっきりとした美男の類に入る男だ。その勇ましさと潔癖さ、そして何よりも統領である政宗の“お手つき”だから他を寄せ付けなかったが、それがまた“そそる”ということもある。
「・・そちも性質が悪いの・・・」
「は?」
ぼそりと呟く政宗の声はうまく届かなかったらしい。
「いや・・・望むところよ、と申したのだ」
そう言って唇を塞ぎながら、政宗は腰を揺らし始めた。
「・・・・・ぁ、は・・・ぁ、んぅ・・・」
突き上げるたびに上がる切れぎれな吐息に、ますます政宗の熱は上がる。
小十郎の身体のことならば、おそらく本人よりもよく知っている自信が政宗にはあった。
背骨に沿った線が感じやすく、汗が滴り落ちても体が跳ねるほどだとか。
胸元は指で弄るよりも舌で転がすほうがより感じやすいようだとか。
中を突くときも正面からならば少し上向きに浅く。
背後から責めるのならばゆっくりと・・・。
すべて本人に確かめたわけではない。こんなことを聞いたところで答えなどしないだろうし、何よりあとが怖い。ただいつもは見せないような姿が見たくて欲に任せて抱き、得たものなのだ。
「あ、は・・・政、宗さ・・ま、も、・・・いけま、せ・・ぬ」
「もう、少し・・・」
先ほどから何度か言い募る小十郎に無理な我慢をさせていた。
本当は政宗自身もとうに限界だったが、色に染まりきった小十郎をもう少し味わいたかった。止め処なく涙を零す小十郎の根元を握り、きゅうきゅうと締め付けてくる後孔の感覚に酔いしれた。
「あ、も!・・・政・・・さ!んぅ・・ひ、あぁ・・・っ!」
根元を握る手を払いのけようとする小十郎は狂わんばかりの嬌声を上げる。常には決して見せないその姿に政宗もその欲を抑えきれなくなった。
「・・・んく・・っ!」
自身欲を吐き出し、小十郎の抑えも解くとその身体を震わせた。
「・・・・ぁ、ぅ・・・んっ・・・」
半開きになった小十郎の口からは涎とともに掠れた喘ぎ声が漏れる。いつも美しく正した背筋は丸められ、虚ろに潤む目は何処を見ているか定かではない。その姿さえ愛しくて堪らないように政宗はその頬や口端に唇を落とした。
しかしびくびくと随分長く震え続ける小十郎にさすがの政宗も少々焦リ始めた。幾分力を無くした自身をずるりと引き抜き、体をずらし上げると小十郎の様子を伺う。と、無意識に隠すように手を添えた小十郎の陰茎からはすでに出るものも残っていないようで、身体と同じようにただひくひくと震えているだけだった。
「小十郎・・・」
丸めた背を擦りながら、政宗は多少の罪悪感とともに小さく声を掛け続けた。そうしていると次第に小さくなる震えに比例してその瞳にも光が戻ってきた。
「・・政宗さ、ま・・・」
「・・済まぬ」
散々に啼かたせいで掠れた小十郎の呼びかけに、政宗は普段滅多に口にしない詫びの言葉を乗せ抱き締めた。
「・・大事はございませぬゆえ・・」
肩口でくぐもる小十郎の声に政宗は安堵し、そして吐き捨てるように呟く。
「何処までも欲深いな、わしは・・・」
「政宗さまは、それでよろしいので」
「・・・やはり性質が悪いぞ、ぬしは」
小十郎の許しにそんな憎まれ口を叩きながら、腕の中の何ものにも替え難い存在を固く抱き締めた。
<終>
ヤベー、終わんないかと思った・・・ふうぅ〜、やりきった!
それにしてもねちこいえちぃで恥ずかしいわ///←今さら・・・